電波塔

21世紀型スノッブを目指すよ!

Divitionism!

ポスターを観た時からずっと行きたかった展覧会、新国立美術館で開かれている「印象派を超えて 点描の画家たち スーラ、ゴッホからモンドリアンまで」(http://km2013.jp/)に赴いてきました。表題に示された三人はいずれも好きな画家でしたし、彼らを中心とした美術の流れを「点描」という一つの観点から捉えようというコンセプトも興味深く感じられましたから、とても楽しみにしていたのです。
実際に鑑賞してきた後でこの展覧会に関して言いたいことは何より、「近代絵画に敷居の高さを感じる人は是非とも行ってきて欲しい!」ということです。スーラとシニャックによる分割主義の実践がまず提示され、様々な画家たちが影響を受け・消化し・あるいは脱却していく様を辿り、そして究極の帰結としてモンドリアンを位置づける。逆に言うならば、モンドリアンの描く単色の矩形を、万人を魅了する印象主義の柔らかな光の元に着地させる。この展覧会は、注意深く選ばれ・並べられた一級の作品群が示すそのような道筋を辿っていくエキサイティングな美術史の旅です。
この展覧会はクレラー・ミュラー美術館との共催で、展示されている作品はほとんどがこの美術館の所蔵品です。初めて名前を知ったのですが、オランダにあるこの美術館はゴッホの作品の大規模なコレクションで知られているようですね。行きたい。所蔵作品は元々クレラー・ミュラーという方の個人コレクションだったそうで。お金持ちは凄い。私もお金持ちになりたい! ……それはさておき。
最初の展示室ではモネ、シスレーピサロといった印象派の巨匠達の作品に迎えられます。率直に言うならこの部屋の展示は少し余分に思えました。推測なのですが、この部屋の展示は元々クレラー・ミュラー側の構想に入っていなかったのでは? 展覧会の英語のタイトルは "Divisionism" になってるのですが、日本での題は「印象派を超えて」となっているんですよね。「分割主義」じゃ人が集まらないから「印象主義」の名前を入れて、この部屋の展示を足したのではないか、などと邪推してしまいます。まあそうは言ってもやはりここにある印象派の作品も素晴らしいのですが。
次の展示室からが本番といった感じがします。スーラとシニャック、その周辺の画家たちによる、極めて緻密な点描による作品群。この部屋で特に私の目を引いたのはシニャックの「オレンジを積んだ船、マルセイユ」です。他の作品よりも太いタッチは大きな印象の違いを生んでいます。そしてそれは彼が描いてきた細かな点描の限界を越えようという試みに思えました。
次の展示室はゴッホゴーギャン、そしてヴラマンク。大胆な原色を用いた彼らの色彩感覚と分割主義の関係が示唆されます。もちらん彼らはそれぞれ単独でも大規模な個展が開催されるような画家ですけれど、こういう形で見せられるとやはり面白い。ゴッホにおける色彩分割、そしてそれ以外の個性(線の力強さとか!)が浮かび上がります。
更に進むと、「ベルギーとオランダにおける分割主義」として、少し知名度の落ちる画家の作品が並びます。率直に言うとスーラの模倣品といった印象を禁じ得ない作品もいくつかありましたが、逆にそれだからこそ、それぞれの作家の個性が現れていく様が見て取れます。特に印象に残ったのはヤン・トーロップとヨハン・トルン・プリッカー。後から数えてみるとこの展覧会に最も多く出品されていたのはトーロップです、表題に含まれていた画家たちを差し置いて。様々な作風を転々とした画家であることが今回展示されていた作品だけからでも手に取るように分かるのですが、様々な形で色彩分割の手法を応用しているのが見れました。特に感銘をうけた作品は<<L.ラウレイセンの肖像>>。トルン・プリッカーは「花嫁」という作品が絶品でした。ただ、彼に関しては展示された作品からは分割主義の影響というのが少しわかりません。
さて、最後の部屋、モンドリアン印象派風の点描絵画から少しずつ本質的な要素以外をそぎ落としていく様が見れます。残ったのは矩形と極めて限られた数色。しかしその極めて少ない要素で構成された作品がどれだけ美しいことか……。きっとこの展覧会を最後まで回った人は感じ取れるはず、そう信じています。