電波塔

21世紀型スノッブを目指すよ!

観たもの、2014年6月 続き

もう7月も終わってしまう。すぐに書かないとどんどん忘れていくせいもあって、何だか雑なまとめ方になってしまった。

展覧会「ジャック・カロ―リアリズムと奇想の劇場」国立西洋美術館にて

http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2013callot.html
ジャック・カロの版画には独特の遠近法があって、彼が編み出した様々な太さの線を使い分ける技法によって広い空間を画面に封じ込めている。街の広大な俯瞰図なども面白いし、狩りの情景を描いた作品での、猟犬が鹿を仕留める、主題の中心となるはずの現場を遠景に据えたりするような空間の活かし方も特に面白く思った。
上流階級の人々の暮らしや宗教的な主題だけでなく、戦争、下層階級の人々といったところまで時代背景が色濃く映し出されていた作品群は興味深い。特に、戦争を取り扱った作品では、勇ましい戦闘ではなくその後の兵士たちによる略奪行為、軍内での処罰、といったところに着眼しているところなども。
ただ、同時開催の「非日常の呼び声」の方には二、三点のデューラーが出典されていて、それを観てしまうとカロの銅版画の印象は随分と色褪せてしまった……。

映画「ヴィオレッタ」

http://violetta-movie.com/
母親のヌードモデルにされた少女のお話。
何よりも主演の女の子の妖艶さに当てられた。ヴィオレッタは「少女」と「女」の両方を兼ね備えてどちらともはっきり言えない不安定さを持った役柄だが、本当にお見事。モデルとしての堂に入った振る舞いと子供の脆い精神を晒す瞬間とが交錯するのが絶妙。母親もまた素晴らしい。完全に頭がおかしいけれども頭がおかしいなりに子に対する愛情を垣間見せている。
愛情はあるが歪んだ形でしか表に出せない、行動は狂っているが愛情は抱いている、そのような崩壊している家庭内で見られる行き違いがこの作品では描かれている。監督自身の経験がもとになっているそうだが、そういう風にやや俯瞰した視点を感じさせる辺りに「自伝的」というにはややドライな感触も持った。自分の過去、親との関係に対する和解のために作ったのかもしれない。

映画「エル・トポ」

ドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」を観たあとで、やはりこの人の撮った映画もちゃんと観なきゃな、ということで、アルハンドロ・ホドロフスキー監督・主演・音楽……のこの作品を観に行った。
この映画は……なんといえば良いのか。スピリチュアル西部劇?
セットや特殊メイク、スタントなどは現代の眼で見れば全く雑。東洋思想めいた価値観・技術を持つ敵たちとエル・トポが戦っていく前半はともかく、障碍者たちの村で神と崇められるようになってからはもう本当にどういうメッセージが籠っているのかわからなかった。

展覧会「マリー・ローランサン展~女の一生~」 三鷹市美術ギャラリー

マリー・ローランサンの作品で私が実物に触れたのは、横浜美術館で常設展示されていたエッチングだけだった。そのせいか? 三鷹に用事があったのでこれ幸いとこの展覧会でも強い感銘を受けた作品の大半は版画作品であった。全くの好みの問題かもしれないが、形のデフォルメのセンスほどには彼女の色彩に興味を引かれなかった。

展覧会「冷たい炎の画家 ヴァロットン展」三菱一号館美術館

http://mimt.jp/vallotton/top.php
フェリックス・ヴァロットンという画家の名はそれほど通ってはいないだろう。私も去年催されたこの美術館の所蔵作品展で作品に触れるまでは全く知らなかったけれども、不気味な黒い塗りと滑稽な人物の描き方、皮肉の効いた題材を描く版画群に感嘆した。それらの版画に加えて油彩もたくさん観れるということで、この展覧会は楽しみにしていた。
キュビスムフォーヴィスムといった彼が生きた時代の前衛美術の嵐からは距離を保っていたものの、この画家の作品には確かな創造力が宿っている。家庭生活におかけるすれ違いといった題材、画面から飛び出してくるような存在感を物体に持たせる鋭利な筆跡、時に空間の歪みを孕んだ構図、題材の理想化を拒むシニカルな観察眼……それらはとても魅力的だ。