電波塔

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格子越しに、女傑絵師の目越しに、吉原を覗く

葛飾応為の代表作である「吉原格子先之図」が原宿にある浮世絵太田記念美術館にて公開されているので、観に行ってきた。彼女は葛飾北斎の末娘で、美人絵に関しては北斎が「自分よりうまい」と評したほどの人物であった。
「吉原格子先之図」は艶やかな色彩感と巧みな明暗法がとても特徴的で、遊郭の様子が遮る格子の隙間から漏れてくるのみであったり、人物の多くが逆光で暗い影として描かれたりする点もまた想像力を掻き立てていく、そのような名品である――というのはデジタルの画像からも見て取れることだ。ずっとこれは拝みたかった絵だ。

この展示は思ったよりも知られていたようだ。この絵の展示の周りには長い列ができていて、解説文の「彼女の名は一部の美術ファンの間にのみ知られている」という文に何だか皮肉すら感じてしまった。後ろに並んでいる人がいると、やっぱりちょっと遠慮してしまって、落ち着いて見れず、何だか悔しい。思ったよりも小さな絵だったし油彩画のように生々しく筆触が残っている訳でもないこともあって、実物に触れたことによる印象の変化というものはそれほど格別ではない。ただ、この絵にそそり立たせられる、描かれた遊郭を覗き見たいという感情は、少しだけ、より狂おしく感じさせられた。
葛飾応為はそもそも点数も多くないし、彼女の作品だけで展覧会という訳にはなかなかいかないようだ。そこで、この作品の特徴をなしている明暗法は他の浮世絵作品においてはどのように表現されていたのか、それをあぶり出していこうという意図に従って他の出展作品は展示されていた。

面白い、流石に浮世絵専門美術館の力を感じさせるキュレーション。国芳と広重の作品を軸に、浮世絵での宵闇や光の表現の実例に触れていく。ただ夜景を描くというだけでなく、夜を背景とした美人画というものも多かった。多くの作品においては、光を正確に捉えるというよりは、「如何に光の違いがあることを感じさせるか」というデフォルメ表現の工夫に重きが置かれているようだった。広重などの美人画はかなり変形を施して流麗な(着物の中に人が入っているように見えない!)ラインを描いていて、それもまた、応為の版本の正確な人体のデッサンにもとづいていることとは対照的に思えた。
順路の最後におかれるのは小林清親ら、明治に入ってからの絵師たちの手によるもの。西洋画の影響も指摘されているが、非常に練られた夜景の表現が見られた。明暗法というと西洋画ではバロック期に急激に発達していったものというイメージなのだけれども、そういう発展の差には画材による差異も大きいのかしら? と勘ぐっている。