電波塔

21世紀型スノッブを目指すよ!

観たもの、2014年6月

展覧会「ニコラ・ビュフ ポリフィーロの夢」原美術館にて

美術館全体をゲームの世界にしようといったコンセプトの展覧会だった。まずエントランスからしてそうで、大きな猫みたいなキャラの作品が設置されていて、その口のなかへと入っていくことに。
ニコラ・ビュフという人は、乱暴に言うならゲーム的にありがちな擬似西洋ファンタジー風の世界観を再解釈して作品にしている。素材が妙に金ぴかだったりプラスチックだったりと安っぽいのに、『作品の芯』とでもいうか、基本的な造形などは安定している。その齟齬が何とも変な感じ。西洋美術の伝統を身に付けた作家がこういうことをやるというのは何だか「ズルい」と思ってしまう。単純にこの人ゲーム大好きなんだろうけれども……。
一階の展示室には、黒いプラ板を切り貼りした上に可愛らしいキャラのパレードの様子を白一色で図像を描いた大きな壁画風の作品があった。この作品は結構気に入ったのだけれど、同種の作品を別の場所でも観たことを思い出した。フランス大使館の取り壊し時のイベント「No Mans Land」でのエントランスゲート、この人だったのか、って。

バレエ「パゴダの王子」新国立劇場にて

http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/pagoda/
新国立劇場バレエ団の前芸術監督デヴィッド・ビントレー氏の退任公演。このバレエはベンジャミン・ブリテンが作曲したもので、プロダクションはこのバレエ団による。筋書きには大胆な翻案を含んでいる。私が観に行ったのは初日の公演だった。
妖怪の被り物とかはともかく、四人の王のあの衣装(一人は完全に米軍の "I Want You" のポスターから出てきたような風貌だった)は何だよ! って思ったけれど、全体的には小道具も大道具も美しくて、観て楽しい演出だった。
ダンスのキャストではさくら姫の小野さん、エベーヌ皇后の湯川さんが抜きんでていたように思う。
面白いと思ったのは道化役の使い方。開演前から幕の前に出ていて、幕が上がったらそのままキャストにちょっかいをかけて回り、そして終わるときにもステージに降りていく幕から抜け出してくる。おとぎ話の世界と現実の間の繋ぎめのような役割だった。
何より、ブリテンの音楽が素晴らしい。第二幕以降のガムラン風の音楽は特徴的だし、前衛ではないものの和声やオーケストレーションには二十世紀らしい新鮮さがある。

映画「ホドロフスキーの DUNE」

http://www.uplink.co.jp/dune/
「カルト映画の巨匠」アルハンドロ・ホドロフスキーの未完の大作「DUNE」にまつわるドキュメンタリー。
ホドロフスキーを中心に制作スタッフたちのインタビューが内容の大半を占めている。80歳を超えたホドロフスキーのエネルギッシュさには圧倒された。エネルギッシュというかかなり頭がおかしい。デヴィッド・リンチ版の「DUNE」の駄作っぷりに喜ぶシーンとかピンク・フロイドに説教した話とかには笑ってしまったけれど、映画が頓挫したくだりを語るときの彼は本当に怒りをあらわにしていた。激しい人だ。
他の制作スタッフも魅力的な人物ばかりで、こんな人たちが夢のように語るプロジェクトを(未完に終わったとはいえ)導いたホドロフスキー、その人たらしっぷりが憎い。

映画「フリークス」

これは今年封切りのものではなく戦前の映画で名画座に観に行った。現代だったらまず撮れないんじゃないのか? 小人症、身体欠損、シャム双生児……といった身体障碍者、「フリークス」たちが出演する、見世物小屋を舞台にした映画。
筋書きとしては比較的わかりやすい勧善懲悪ものだったが、最後のシーン(遺産目当てに主人公を毒殺しようとした女性が自らもフリークスになってしまう)は少し納得がいかないなあ……(だってそれが「報い」なのだったら、ここまで活き活きと描かれてきた「フリークス」たちの立場はどうなるの?
映画の中ではコミカルな一面も見せるこういう人たちって、実際にはどういう人生を歩むことになったんだろうか、などというのはなかなか想像するのが難しい。

映画「チョコレートドーナツ」

http://bitters.co.jp/choco/
前評判をよく聴いていたので観に行ったけれども、本当に良かった。
ドラッグの不法所持で捕まった隣人の息子を、自分たちの関係を隠したゲイのカップルが引き取り幸せな日々を過ごすのだが、次第に彼らの関係が露見し始め……というお話。実話を下敷きにしているようで、同性愛者が社会的に置かれた位置の理不尽さ、家族という関係に関する疑問、……などのテーマが絡む。
この映画は脚本も演技も優れているし、随所で挿入される歌もとても良い……けれども、カメラワークがなかんずく素晴らしい。構図、ライティング、映像の質感、レンブラントの絵画すら思わせる美しさでため息が漏れるばかり。

実はこれで感想を書きたいもののうち半分くらい。先月は観たものが結構多い一方で今月はなかなか書く時間が取れないからこういう状態に。全部について書き切らない間に来月になりかねない気もしてしまうが……。