電波塔

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新国立劇場「バレエ・リュス ストラヴィンスキー・イブニング」

 去る11月16日、新国立劇場にて、座付きのバレエ団によるところの「バレエ・リュス ストラヴィンスキー・ナイト」を鑑賞してきました。演目は全てストラヴィンスキーの、「火の鳥」「アポロ」「結婚」という三本立て。
 この作曲家のことは昔から好きだったこともあり演奏会などがあると積極的に聴きに行ってきましたが、バレエを観たのは今回が初めて。この作曲家がバレエというジャンルに非常に力を入れていたことはよく知っていたし、バレエ音楽はやっぱり舞台が前提となって書かれているものだから振り付けと一緒に観ないことには、とは思っていたものの。
 正直に行って、音楽ほどの興味をバレエに対しては抱いてませんでした。「何かあの派手な舞台で、何かあのちょっとエロチックな衣装を着て、何かあの独特な動きで踊る、アレでしょ?」――などといった非常に雑な先入観も多少は持っていまして。いやほんと、そんな風に思っていたことをただただ恥じ入るばかりの、バレエ初体験でしたとも!
 初っ端の「火の鳥」から舞台いっぱいに展開される絢爛たるファンタジーに感動し、「アポロ」では削ぎ落とした抽象的な音楽とダンサーの身体表現に魅了され、「結婚」の土俗的で祝祭的なエネルギーに圧倒され、本当に満ち足りた気分で劇場を出てきました。
 この三曲というのはとても絶妙なチョイスに思えます。「火の鳥」はこの作曲家の出世作ですがまだロマン派の香りが色濃く、伝統的なバレエの表現に立脚していると言えそうです。「アポロ」は新古典主義時代の「音楽は音楽以外の何も表現しない」という美学が如実に表れています。その新古典主義様式に舵を切るよりは前でセンセーショナルな「春の祭典」よりも後の作品である「結婚」は「原始主義」様式のオスティナートと変拍子が生み出す粗野さが強く在ります。「火の鳥」はともかく後者のニ作品は演奏会でもさほど取り上げられているとは言えませんし、バレエで観れるという機会は今後もそれほど多くはないのではという思いを抱いているのが正直なところです。
 いずれにせよ、舞台の機微やダンスと実に深く結びついているストラヴィンスキーの音楽の魅力をより深く知ることが出来た良い機会でした。新国立劇場のバレエ団にはこれからもこういった、あまり知られていない作品を取り上げる公演、挑戦的な新しい作品を取り上げる公演をどしどしとやって欲しいところです(きっとこれからもそうしてくれるでしょう、王道作品も上演しながら)。